〇剥離剤って?
インターネットなどで剥離剤を検索するといろんな用途の剥離剤が表示されます。検索窓に“ワックス”の文字を追加して入れなければそのほとんどが塗料用、もしくは接着剤用の剥離剤しか表示されません。いずれにせよ剥離剤とは、塗料や接着剤、もちろんワックスもそうですが、素材に付着したものを引き剥がす役割を持った薬剤です。
一括りに剥離剤と呼ばれますが、対象物によって適切な選定をしなければ全く効果を得ることが出来ませんのでご注意ください。
ここでは樹脂ワックスを除去する為の剥離剤について記述します。
堆積した古いワックスを取り除いたり、汚れて傷が入ってしまったワックス、を除去し、床材を無垢の状態に戻すことを目的とした薬剤になります。
〇剥離が必要な時って?
樹脂ワックスは一生ものではありません、耐久性もガラスコートなどと比べると弱く、人の歩行により摩耗し、削れてしまうため定期清掃で塗り足してあげなければなりません。しかし、人の歩行は均一ではなく、歩行エリア内でもムラが生じます。そこに均一にワックスを塗ると、ワックス層の厚いところと薄いところが生まれ、そのことにより床の光沢感や色の濃さに濃淡が発生し、見栄えが悪くなってしまいます。
また、ワックスは時間の経過とともに硬化劣化するため、古くなったワックスはひび割れ、部分的に剥がれたり、表面が粉状になったりします。そうなるといくら上にワックスを重ねても、しっかりと造膜出来ず、従来の耐久性が得られないばかりか、パウダリングや艶引けを起こしてしまいますので、剥離作業をしなくてはなりません。
〇剥離剤の仕組み
剥離剤は何故ワックスを溶かすことが出来るのか。
ワックスの塗膜は、アクリルポリマー樹脂が規則的に並んで形成されております。そしてポリマー同士は金属架橋と呼ばれる架橋で繋がり、1枚のフィルムの様に成り立っております。かわいらしく表現すると、隣り合ったポリマーが手を繋いでいるところを想像してみてください。(イメージ図参照)
剥離剤の成分はその金属架橋を断ち切る役割をします。つないだ手を断ち切る・・・残酷ですね。剥離剤はチームワーク抜群の仲良しポリマーの仲を切り裂く役目を担います。

〇剥離作業
では剥離作業はどのようにするのかその手順をご説明します。
準備するもの
剥離剤・ポリッシャー・パッド(黒)・バケツ(空のペール缶やポリペール)・缶キャリー・モップ・ウェットバキューム(ドライヤー・水取)・タオル・マット・フィルム付養生テープ・計量カップ・送風機・すべらない靴(はくり用シューズカバーや長靴)・隅擦り用パッド・ケレン・手袋・掃除機(箒・チリトリ)・フロアーダスター
- まず最初に剥離をするエリアの移動できる什器をエリア外へ移動します。その際元の位置に戻せるよう、写真を撮ったり、印をつけたりします。(セイワのピタレコシールも便利)
- 次に剥離面のごみを取ります、掃除機やフロアーダスター、箒等で主に土砂などを取り除きましょう。(小さな石などがあると、ポリッシャーを回した時に床材を傷つけてしまいます。)
- 養生テープなどを使い幅木や移動できない什器、剥離をしないエリアなどに剥離剤及び剥離汚水が掛からないよう、しっかりと養生します。また出入り口には養生用のマットなどを敷き、靴底についた剥離汚水などをエリア外に持ち出さないようにします。
履いている靴は底が滑りにくい仕様の靴に履き替えます、または剥離ネットなどを靴に履かせて下さい。靴底は黒色のモノより白色のモノをお勧めします。
- 道具の準備も③と同時進行で進めます。エリアの広さにもよりますが、剥離用のパッドは多めに用意しておくとはかどります。剥離剤は計量カップで量り希釈倍率を守って必要な量を作っておきます。(残ったワックスの量や種類に応じて適切な剥離剤、希釈倍率を選定するには経験しかありませんが、希釈幅の大きい濃縮タイプの剥離剤を用意し、どのくらいの希釈倍率でベストな反応をするか、事前にテストしてください。)
バケツにはきれいな水を入れて数個用意しておきます。
- きれいなモップを使い、剥離剤を撒いていきますが、その時はできればモップが床に触れないようにし、たっぷり目に撒きます、剥離剤の量をケチると表面が乾燥し、より剥離が困難になるのでご注意ください。
古く効果の進んだワックスの場合、剥離剤が浸透しにくい場合がありますが、そういった場合は剥離剤を撒く前にポリッシャーに黒パッドを装着し、表面に傷を入れるようにして下さい。
- 全体的に満遍なく撒き終わったら、表面の乾燥に気をつけ5~10分ほど待ちます。表面が乾燥する場合は剥離剤を塗り足してください。その後黒パッド等剥離パッドを装着したポリッシャーにて、丁寧にスクラブします。壁際などポリッシャーを使いにくい箇所は隅擦り用のハンドパッドで擦ります。洗浄の際ポリッシャーは後退しながら操作しますが、剥離の時は前進で操作し、ポリッシャーをあてた後、足でしっかりとワックスがとれているか確認しながら作業を進めます。
剥離剤に反応したワックスは、完全に床から剥離されない時間帯はスケートリンクの如くとても滑りやすくなっている為細心の注意が必要です。経験豊富なプロでもたまにコケます。
- 満遍なくポリッシャーを回したら汚水を回収します。ドライヤーで壁際に汚水を中央へ寄せつつ、ウェットバキュームで効率よく回収します。ウェットバキュームは満タンまで回収せず、汚水が8分ほどたまったら捨てるようにしましょう。
- ポリッシャータンク内に中和剤(リンス剤)を入れ、リンス作業をします。床面は剥離剤によりアルカリに傾いているので、酸性の中和剤を使って床を中性域に落とします。また残留洗剤はワックスの密着不良の原因となるため、しっかりとリンスしましょう。
- リンス作業時に出た汚水はウェットバキュームで回収し、きれいなモップを使って床を拭き上げ、送風機などを使用し完全に床を乾燥させます。完全剥離した後についた靴跡はなかなか取れませんので、ここからは土足歩行は禁止となります。
- 床が完全に乾いたらワックスを3層塗布し、完全乾燥させ什器をもとの位置に戻せば終了となります。
〇剥離のできない床
剥離作業のできない床というのもいくつか存在します、一つにはリノリウム床、この床は天然素材亜麻仁油に樹脂、コルクくずなどを混ぜ合わし、麻布に圧着したものです。環境にやさしく、抗菌作用もあるため、病院などでも広く使われる素材です。但しその特性としてアルカリや溶剤に弱いという特徴があります。したがって強アルカリである剥離剤とは相性が悪く、通常の作業では剥離を行うことが出来ません。次にラバー(ゴム床)タイル、弾性が強く耐摩耗性に優れる床材ですが、そもそもラバータイル自体、パラフィンなどの劣化防止剤が多く表面に移行する為、樹脂ワックスが密着しにくい床材ではありますが、種類によってはアルカリにより変色や退色する場合があるので要注意です。もう一つは古くなったPタイルです。ひび割れやめくれなどが発生しているPタイルは剥離剤がタイルと素地の間の隙間に入り込み、タイル自体をはがしてしまう恐れがあります、またポリッシャーを回した時にタイルが欠けてしまった、ということも少なくありません。
この3つのパターンはクレームに直結してしまうので十分に注意してください。
剥離剤を使用する作業には様々なリスクが伴ってきます。その作業にどのようなリスクがあるか、しっかりと把握したうえでの作業をお勧めします。
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